手紙などに書く文語的な表現で、「つつがなく過ごしております」というのがあります。
この「つつ」というのは、一体何なのでしょうか?
実は、「つつ」は現在ではほとんどいなくなった、「ツツガムシ」という虫のことです。
ツツガムシ
写真は、こちらからお借りしました。
そして、このツツガムシを漢字で書くと、「恙虫」。
と書くと、皆さんはここであれっと思われたのではないかと思います。
そうです。この表現は、「つつ・がない」ではなく、「つつが・ない」と切るのが正しいのです。
さて、ツツガムシは、ダニの仲間の昆虫です。
ノネズミの耳などに寄生(きせい)する虫で、かつては新潟県、山形県、秋田県、高知県の河川流域や、伊豆諸島、富士山麓(ふじさんろく)などで、ツツガムシ病を媒介(ばいかい)する、困った虫でした。
ツツガムシ病は、日本特有の急性伝染病のひとつで、この虫に刺された部分は壊疽(えそ)を起こし、潰瘍(かいよう)になります。
それとともに、39度から40度の熱が出て、リンパ腺が腫(は)れたり、発疹(はっしん)が出たり、ひどいときには命を落とすこともある、まことに恐ろしい病気でした。
昔は、稲作の作業も裸足(はだし)で行なっていたため、ツツガムシにさされることも多く、このような重篤(じゅうとく)な症状を引き起こすツツガムシ病は、当時の人たちにといって脅威(きょうい)だったのです。
そして、そんな生活の中で生まれたのが、「つつがない」という表現。
「つつがない」ということは、「ツツガムシ病にもかからず元気です」という意味なのです。