オーケストラにおいて、指揮者はたったひとりだけ、楽器を持たない楽員です。
しかしながら、18世紀までは、オーケストラの規模が現在に比べてかなり小さかったのです。
そのため、作曲者が指揮を兼任(けんにん)し、自分でバイオリンやチェンバロを弾きながら、オーケストラの指揮をしたといいます。
演奏中にオーケストラの指揮棒で命を落とした指揮者がいた
さて、フランスのルイ14世の宮廷楽団総監督に、リュリ(Jean-Baptiste Lully、1632~1687)という作曲家がいました。
彼は、現在の指揮者が使用しているものよりも長い「指揮丈(しきじょう)」といわれるものを使っていて、床を「ドンドン!」と踏み鳴らして指揮をとっていました。
が、ルイ14世の病気快癒を祝うための《テ・デウム》の演奏中に、手が滑ってしまったのでしょうか、なんと、その指揮丈で自分の足を「グサッ!」と刺してしまいます。
そして彼は、その傷による壊疽(えそ)が原因で、命を落としてしまったのです。
その後、19世紀になってオーケストラの規模が大きくなると、現在のような専門の指揮者が登場します。
そして、その曲の拍子や意図を団員にしっかりと伝えるために、指揮棒が必要となりました。